【ケープコッド編#10】 双子座のリージョン
ドアをノックするが返事はない。
もう一度ノックする・・・が、やはりなんの反応もない。
出かけることはできないはずだ。
何かあったのか?
アッシュ「・・・モンティナ?」
ノブを掴む手に力を込めてゆっくりと回してドアを開ける。病室内には明かりはなく、薄暗い室内に廊下の天井にある蛍光灯の光が差し込む。
最初に目に入ったのは正面にあるベランダの窓・・・そして風に揺れるカーテンだった。
窓の外・・・風雨は更に強くなっているようだ。
不思議なことに、何故か窓は全開になっており、外から降り込んだ雨で病室の床が濡れている。
アッシュ「・・・・」
何か・・・何かが変だ。
心に大きなプレッシャーを感じている自分に気がつく。
床を見ると雨水による足跡があった。
その足跡はベランダの外から・・・ベッドの方へと続いている。
ベッドは天井から吊り下げられた仕切り用のカーテンによって囲われており、中の様子が見えない。
アッシュ「モンティナ?」
返事はない。
モンティナと初めて会った時のことが脳裏を過ぎる。
ジョージタウン・・・忘れたくても忘れることのできない忌まわしい出来事。
あの時もこんな大雨の夜だった・・・。
事のはじまりは・・・。そう、ジョージタウンのある屋敷の主から依頼を受けた私の友人からの連絡が事の発端だった。
彼一人ではその依頼は手に負えないということで、急遽私に白羽の矢が立ったのだ。
その内容を知る前に、私には漠然とした予感のようなものがあり、自然とこの世への別離の言葉を呟き続けていたのだった。
ここで立ち尽くしていても始らない。
ベッドを仕切っているカーテンに手をかけて静かに開けていく。
変わり果てた姿でベッドに横たわるモンティナ・・・
一見不審な様子はない・・・瞬きをせずに焦点の合っていない目でぼんやりと天井を見ていることを除いては・・・
・・・バタンッ・・・・
私の背後で音が聞こえた。
開け放たれたままだった病室のドアが閉ざされた。
病室は暗闇に包まれる。
私はベッドサイドに置いてあった電気スタンドのスイッチを手探りで押す。
電気スタンドのオレンジ色の光で部屋が照らされる。
モンティナは・・・ベッドの上に横たわったままだ。
さっきと違うのは目を閉じていることだけだ。
怪我人を起こすのも躊躇われる・・・今日のところはこのまま引き返すか?
そう思ってベッドから離れようとした時・・・異変に気がついた。
いや、最初から理解していたのだ。それを認めたくないために気がついていない、と自分自身を騙していたのだ。
ベッドの上のモンティナの腕には点滴のチューブが繋がったままだ。そして、ベランダに出てずぶ濡れになっているはずの身体は全く濡れた形跡がない。
どういうことだ?
ベランダからベッドに続いているこの足跡はいったい・・・誰の?
私は再び床の足跡に目を向けたまま、目を離すことができない・・・正確には視線を正面へ向けることができないでいた。